今回は私の大好きな漫画家「徳弘正也」の隠れた名作、昭和不老不死伝説バンパイアと、その続編である近未来不老不死伝説バンパイアの紹介をします。
いずれも5巻で完結するので(計10巻)、お手軽に読めて、且つ読みごたえがある作品です。
徳弘正也という漫画家
徳弘正也といえば「ジャングルの王者ターちゃん」で有名な漫画家ですね。
また、今日は全員カレーライス食っていいのか!という話で有名な「狂四郎2030」の作者でもあります。
ジャングルの王者ターちゃんはギャグ主体の漫画であるという印象を強く持たれている方が多いと思いますが、
実際は「人類とそれ以外の生物の共存」をテーマにした、実はシリアスな作品になっています。
また狂四郎2030も、北海道にいる志乃を助けに行く物語ですが、遺伝子に関する倫理感がふんだんに散りばめられた、非常に考えさせられる作品です。
今回紹介する昭和不老不死伝説/近未来不老不死伝説バンパイアも、「宗教」をテーマにしたシリアスな作品です。
また、ターちゃん、狂四郎、バンパイア、また他の徳弘正也作品ほぼ全てに共通するのは少し下品な下ネタです。
そんなシリアスなテーマの中で、お下劣な笑いがあるのが、徳弘正也漫画の良さだと個人的に思っています。
また徳弘正也といえば、ONE PIECEの作者である尾田栄一郎をアシスタントとして抱えていたこともあります。
あらすじ
昭和不老不死伝説バンパイア
※ネタバレ注意
バンパイアであるマリアは不老不死に取り付かれた人間達との戦いをその長い人生において幾度となく繰り返してきた。そして2004年、再び不老不死に取り付かれた人間との戦いが近い事を感知したマリアは超能力を持った高校生本田昇平を見つけ出し、彼の能力を強化し始める。十文字家の刺客がマリアに襲いかかる中、十文字家の中にいながら、マリアを神と崇めるマリア会を設立した十文字篤彦も本格的に動きはじめ、様々な思惑が交差することとなる。
wikipedia – 昭和不老不死伝説バンパイア
主な登場人物は3名です。
バンパイアであるマリアと、そのマリアを救う超能力者である昇平、そしてマリアを神だと崇める十文字篤彦ことあーちゃん。
マリアは不老不死で、長年「不老不死の力を欲するもの」と、「マリアを神と崇めるもの」と戦ってきました。
特に後者の方が厄介らしく、敵に回した場合はその教祖の一家を皆殺しにし、その分子を根絶やしにしてきました。
マリアだけで戦うことは厳しいので、毎回昇平のような覚醒者を探し出し、戦いに協力するよう呼びかけてきたのです。
そして今回の敵はあーちゃんなわけですが、そのあーちゃんは以前に戦ったことがある宗教団体の子孫だったのです。
最終巻ではあーちゃんの豹変ぶりにド肝を抜かれます。
近未来不老不死伝説バンパイア
※ネタバレ注意
2010年に起きたマリア会の軍事クーデターにより日本は、民主主義が消滅し、マリアを神と崇め「正義は必ず勝ち正直者は報われる」ことを教義とするマリア律法が全てに優先し異を唱えるものを排除するディストピアと化していた。2014年、マリアの生まれ変わりである本田マリアは昇平の妹として育ち普通の女子高生となっていたが、政権内部の権力闘争に巻き込まれていく。
wikipedia – 昭和不老不死伝説バンパイア
主要人物は変わっていませんが、前作のマリアは本田マリアとなっています。
どういうことかというと、マリアは不老不死というわけではなく、厳密には無性生殖を行い、且つその記憶を継承する生き物なのです。
本田マリアという名前は、前作のマリアが不完全な状態で無性生殖をおこなったため、本来すぐに成人するはずのマリアが、人間とほぼ同じスピードで成長していったため、
人間界に馴染むために、昇平の名字である本田を付けたのだと思います。
今作では「原理派」と「革新派」の派閥争いや、「神とは何か」という哲学的なテーマに沿って物語が進んでいきます。
最後のシーンは非常に衝撃でした。。
ぜひ読んでみてください。
なにが面白いのか
何より哲学的!
徳弘正也作品すべてに共通していますが、やっぱり哲学的な話が非常に多いです。
例えばこのシーン

このシーンでマリアは「マリアを神と崇めるもの」の方が厄介だという話をします。
そして戦争や宗教は、「ある一つのことが正しい」という信念のもと起こりうるものだと言及しています。
人にとって幸福なことは、別の人にとって幸福とは限らない。
その思想が行き着く先は戦争だと、次のページで断言しています。
戦争って聞くとちょっと大げさですが、ささいな喧嘩・意見のぶつかり合いにも同じことが言えると思います。
「本当の幸福は、お互いを受け入れること」
至極当たり前なことだと思いますが、少年・青年漫画でここまでメッセージ性があるものは非常に珍しいと思います。
実際の社会問題を題材にしている
続いてこちらのシーン

自分はあまり宗教のことはよく知りませんが、なんだかキリスト教のカトリックとプロテスタントみたいですよね?
本作における原理派はカトリックで、革新派はプロテスタントとなります。
浅い知識ですが、プロテスタントは聖書主義らしいですね。
そして今作ではこんな疑問を投げかけます。
聖書って誰が書いたんだっけ?
自分は無神論者なので、宗教やっている人にはゴメンナサイ。でも、無神論者が多い日本人だからこそ投げかけられる問いなのかもしれないですね。
更に浅い知識でモノを語れば、ISISなどのイスラム過激派組織だって、もともとはみんな同じ神様を崇めているハズなんです。
なのに考え方の違いだけで、あんなにもニュースに取り上げられるような存在となってしまうわけです。
そんな社会問題も、下品な下ネタとともにポップな気持ちで考えさせられる。そんな漫画です。
シリアス×下ネタ
本記事に何度も書いてますが、徳弘正也といえば下ネタといっても過言ではありません。
時代を感じさせる少し下品なネタは、読者を疲れさせません。

最後のコマの吹き出しは、物語のオチに近い部分なので消しました。
このシーンは、マリア会の教祖であるあーちゃんと、アメリカの軍事産業を牛耳るコモンセンス社のエージェントの会話シーンです。
昭和不老不死伝説の物語終盤、非常にシリアスなシーンにも関わらず、間の一コマにマリアによる「だめっいきそう」という、ちょっとエッチなシーン。
冷静にみるとこのコマいるか?と思いますが、これこそが徳弘正也ともいえます。
シリアスシーンと下ネタの絶妙なバランス。
そして序盤ではただの下ネタが、後半重要な意味を成します。
更に性交シーンや、性欲に葛藤するシーンは非常にリアリティを高めます。
狂四郎2030でも、そんなシリアスと下ネタが絶妙なバランスで描かれています。
最後に
ちなみにこの漫画は、自分史上の漫画ランキングでは上位15位くらいですw
上位は幸村誠のプラネテス、三浦建太郎のベルセルク、あとは林田球のドロヘドロとかかなぁ。
そんな話を友人にしたら「全部カタカタ5文字じゃん!」と言われました。確かに。
今回紹介した理由は、徳弘正也の漫画の中でもあまりスポットライトが当たっていないので、ぜひ皆さんに読んでほしいなという一心です。
全部で10巻なので、暇なときにイッキ読みしてみてください。